日本の酪農家が3年以内に滅亡する理由をわかりやすく書いてみた

日本の酪農業界は危機に直面しています。

上がらない市場価格、飼料やガソリンの高騰で現在90%の酪農家が数千万円の借金をした上に、毎月1頭1万円(全酪農家平均75頭飼育)の赤字になっています。

1年後、2年後に日本の酪農家がいなくなる可能性も十分考えられる状況にいます。

一方で「牛乳は体に悪いからなくなってもいいんじゃないの?」という声もあります。事実日本人の胃や腸では牛乳を消化する機能が低く、日本人の体にはあっていないという話もあります。

(参考:公益財団法人骨粗鬆症財団。牛乳を飲んでも大丈夫?

GHQが登場するまで学校給食で牛乳を毎日飲むような文化は存在していませんでした。

もし牛乳を飲むことで健康被害が有るのであれば、日本の酪農家の危機をそれほど危機とは言えないものなのかもしれません。

しかし、本記事では全面的に酪農家を救うべきという話をさせて頂きます。

日本酪農業界全滅の危機の世界的背景

参考:https://www.jacom.or.jp/niku/news/2022/06/220616-59618.php

酪農家を苦しめている原因をはじめに話します。

この原因を知らないことには、国民一人一人が酪農を救うという決断する必要性が感じ取って頂けないでしょう。

いろんな問題がありますが、酪農家を一番苦しめているのは飼料の高騰です。飼料の高騰が起きている世界的背景を5つ話します。

世界的な水不足

日本は世界でも有数で水資源に恵まれている国なので日本では”水不足”という言葉を聞いて危機感を感じることはまずいないと思います。

しかし世界では過去30年間で、数ヶ月から数年にわたり降水量が平年より極端に少なく、深刻な干ばつ問題が生じています。

特にロシア・アメリカ・オーストラリアといった穀物主要生産国では、大きな被害を受けていて世界の主要穀物栽培面積の4分の3に及ぶ地域で干ばつに被害を受けたとされています。被害額は30年間で約1,660億ドルになると算出されています。

(参考:農研機構(研究成果) 干ばつによる世界の穀物生産被害をマップ化

そして、2008年に国際小麦相場の史上最高値を記録しました。国際価格が2.5倍にも急騰したのです。(2006年年比)

コロナショック

コロナが2020年に流行り、世界は一瞬にして新型ウイルスに恐怖しました。輸出入の物量は完全にストップし、輸入したくても輸入できない、輸出したくても輸出できないという状況になり、穀物の為替相場は高騰しました。

原油の輸出入が滞り、それに応じて輸送費が跳ね上がりました。それに伴い穀物の金額跳ね上がったのです。

中国の大量買い占め

中国税関総署によると2020年の食品輸入額(飲料除く)は981億ドルと、10年間で4.6倍に増えたとされています。

5年間で大豆やトウモロコシ、小麦の輸入額が2〜12倍に急増、牛肉や豚肉、乳製品、果物類も2〜5倍に伸びました。

(参考:JBpress。日本をも直撃、世界中の食卓を脅かす中国の「食料覇権主義」

中国が大量買い付けをする目的などの話はしませんが、世界の10分の1の人口を要す大国家が大量買い付けを行う影響は市場価格を容易に左右させます。

ウクライナ紛争勃発

ウクライナとロシアの戦争は多くの人が興味を示すところと思いますが、「戦争は嫌だね〜」と何処か他人事に感じていないでしょうか?

ウクライナとロシアの戦争は世界に物凄い影響をもたらしています。両国は一次産品の主要なサプライヤーであり、世界全体の小麦の30%、トウモロコシや無機質肥料、天然ガスの20%、石油の11%を両国で占めているのです。

(参考:独立行政法人労働政策研究・研修機構⇒ロシアのウクライナ侵攻が世界経済に与える影響

戦争が始まり、両国からの物流はストップしました。家畜飼料の原料が世界から3割消えたということです。

歴史的な円安

2022年の2月ごろ1ドル115円ほどでしたが、コロナで金融緩和をしていた世界中の国で金利の引き下げが行われ、急激な円安が続いています。

2022年11月4日時点で1ドル148円にもなっていて、約半年ほどで1.3倍にまで急騰したのです。

(円安とは?1ドルを買うのに115円かかっていたものが、148円も渡さないと1ドルを買えなくなったので、円の価値が下がっています。これを円安と言います。)

つまり海外品を輸入するとき、円安なので昔よりも高いお金を払わないと買えなくなってしまったということです。

酪農家だけが飼料高騰で悲鳴をあげているのか?

世界的背景で話した5つの主な理由から、飼料の原料となる穀物(トウモロコシ、小麦など)が高騰しています。

飼料を必要とする日本の家畜は豚、鶏、牛の3種類が主です。

家畜を育てるために必要累計の餌の量からみる輸入飼料の割合はなんと、豚と鶏はほぼ100%、牛は75%です。日本の家畜は輸入飼料なしでは生きていけない状態です。

そのため日本の家畜業者は基本的に、飼料の高騰をモロに受け経営がもれなく悪化しています。

その中で最も影響を受けているのが酪農です。酪農とは牛乳を出させるために飼育している牛飼いのことだと思ってください。

豚は1日約2kg(出産後は約6kg)、鶏は1日約220gに対し、乳牛は1日約30kgもの餌を食べます。ちなみに肉牛は1日約5kgです。

2020年には約70,000/tだったものが2年間で約100,000円/tにまで値上げしていることを考えると、酪農家の影響は凄まじいものです。

酪農家の月間輸入飼料代

参照:https://www.chosyu-journal.jp/shakai/23933

日本の酪農家の平均乳牛所有頭数は平均75頭です。

1頭1日30kgの餌を食べ、そのうちの75%が輸入飼料とすれば、1日1日22.5kgの輸入飼料を1頭で食べます。

つまり1日1.7トン、月間52.3トンの輸入飼料を消費します。

1トン7万円から10万円になったことを加味すると、月間366万円から523万円に値上がったわけで、月間157万円も経費が上がったということなのです。

全然上がらない乳価

飼料は上がり、もちろんガソリンやトラクターなど経費が下がっているものはありません。

これは酪農だけでも農家だけでも、他の業種でも同じですが、経費は年々上がっています。

経費が増えた分、乳価(酪農家にとっての売上)が上がれば良いのですが、ここ5年でほぼ変わっていません。

1リットル110円もしないのです。

年中無休で毎日世話して、水より安い金額で生乳を売っているわけです。

2022年11月から乳価が10円上がるとのことですが、残念ながら上がった経費分は賄えていません。

上がることは喜ばしいことですが、入荷が10円上がって1リットル113円になったところで、ほとんどの酪農家が数千万円の借金を抱え倒産寸前ということを考えると何も変わらないのです。

子牛の買い手無し

参考:https://pre-miya.com/today/shakai/123472.html

酪農の王道の副業があります。

酪農家は経営が厳しくなるとこぞって行うのが、子牛を生ませ売るというものです。

(「生ませ」という表現を用いると感じが悪いかもしれませんが、畜産を行う上で繁殖は絶対的にしなければいけないことですので、ご理解ください。)

上記のグラフを見ると、乱高下は激しいがおよそ、65〜75万円で取引されていました。

しかし、最近飛び込んできたニュースでは、子牛が1頭110円という最悪な状況にまでなっているのです。

当然といえば当然です。餌が高騰しすぎて、飼育すればするほど赤字になっていくのですから、子牛を購入するメリットが1mmもないのです。

酪農家が営業努力する策が一つもない。

一般的な農家は経費が嵩み、JAに出荷しても赤字になる場合は、企業努力で直売などの対策ができるものです。

JAであれば安く出荷することになるので、自分で販売することで取られる中間手数料が安くなるので、利益率が上がります。

もちろん全員が成功できるわけではありませんが、努力はできます。

しかし、酪農に関しては食品衛生法の観点で、酪農家が自家生産することが非常に難しいです。

そもそも搾乳した生乳は全て出荷するという契約をしている酪農家がほとんどなので、ここからのスタートになります。この問題を解決した後に、食品衛生法に基づいた生産工場を作らなければいけません。

この施設を作るのに、どれだけ小規模に行ったとしても2000万円はかかります。

今の酪農家に今こんな大型な投資ができる体力のあるところは全国に1%もいないでしょう。

子牛を生ませれば赤字になる、加工品で稼ぐこともできない。完全にお手上げ状態なのです。

酪農家が日本からいなくなった未来

この記事の冒頭で書いた「牛乳は日本人にあってないのだから、無くなっても良いんじゃね?」という考えもあると思うので、「こんなに大変でもうどうしようもできないのだったら早く全員畳んだほうがいいんじゃないの?」という意見の方も中にはいるかもしれません。

日本の酪農がなくなったらどうなるのかを推測してみます。

牛乳が飲めなくなる

まず牛乳が飲めなくなります。

生乳の輸入はしていません。というよりもできません。よって、現在日本における牛乳の自給率は100%です。

日本の酪農がなくなれば牛乳が飲めなくなります。

それに応じちゃんとした牛乳をカフェラテなども飲めなくなります。

穴埋めは輸入脱脂粉乳

脱脂粉乳とは生乳から脂肪分と水分を全て摂ることで生成される粉です。

脂肪分がなくなっているので、カロリーが低いがそれ以外は牛乳と同じ栄養価と言われています。

脱脂粉乳の一番のメリットは粉状のものなので保存が効く点です。なのでアメリカ様が笑顔でたくさん輸入してくれることでしょう。

脱脂粉乳用の生乳は農家の儲けは当然通常より少ないので、ホルモン剤の注射や遺伝子組み換えされた飼料が与えられた不健全な牛の牛乳から作られるのは容易に想像がつきますね。

乳業メーカーが潰れます

日本では生乳の輸入をしていません。むしろできません。

そのため日本の乳業メーカーは国産100%の原料(生乳)でいろんな加工品を作って我々消費者に届けてくれていました。

しかし、原料の生乳の生産自体がなくなるので、国産の乳製品は食べることができなくなります。

乳製品は全て輸入品

ヨーグルト、生クリーム、バター、脱脂粉乳、チーズ、アイスクリームなど牛乳から作られる商品は、日本の酪農がいないので100%輸入品になります。

生乳を輸入することは衛生上ほぼ不可能ですし、できたとしても毒物そのものです。

もちろん、「酪農家がいない国」なので足元を見られた貿易が行われます。

酪農家を救わさせて頂きたい。

顔一面アイスクリームだらけにして、かぶりつく子どもの笑顔が好きです。

ケーキを食べる時、生クリームはお皿につき、透明なフィルムにも付きますが、ペロペロ綺麗にします。

イタリアンにはチーズは必須です。

牛乳は特別好きじゃないですが、たまに飲みたくなる時があります。

この日常がなくなることなんて、正直想像もつきませんが、酪農家が大変だっていうことは理解していただけたと思います。

11月乳価が10円ほど上がりましたが、乳業メーカーが10円しかあげれない理由も理解できます。一番利益率の良い牛乳離れが値上がりによって生じた場合、さらなる客離れが予想されるからです。

つまり「値上げしてもめっちゃ売れるじゃん!」と乳業メーカーが認知さえすれば、また必ず乳価は上がります。

乳業メーカーにとっても酪農家が潰れてもらっては困りますからね。

ということで、とにかく牛乳を買ってください!毎日コーヒーを飲むのなら、カフェラテにしてください。

とにかく牛乳を消費し続けること。これが一番重要なことです。

国民運動としてやらなければ本当に来年酪農家が半数になっててもおかしくないです。